

第4世代の登場で注目される「P2P技術」のシンポジウムである「P2P技術の利用・サービスに関わる取組・実験の最新動向」が、去る2008年2月19日(火)、東京大学本郷キャンパスにて開催された。主催はP2Pネットワーク実験協議会、後援は総務省および財団法人マルチメディア振興センター。
動画に代表される大容量コンテンツの増加を背景に、ネットワーク・トラフィックのコントロールが急務となっている昨今、P2Pを利用したコンテンツ配信-ネットワーク(CDN)の期待が高まっている。シンポジウムでは、このP2Pの最新の技術動向から、利用者に安心・安全に使ってもらえるためのガイドライン、そして実際に商用サービスとしてP2Pを利用している企業による活動報告がなされた。立ち見客が出るほど盛況な会場は、参加者の熱気に包まれた。(文中敬称略)
『第4世代のP2Pによる商用コンテンツ配信』が急浮上
=P2Pネットワーク実験協議会シンポジウム開催=
≪1≫P2Pをビジネスに役立てるためのシンポジウムが開催
[1]P2Pの最新技術からビジネス利用の現状報告まで
シンポジウムは、大きく3部で構成された。
「セッション1」
セッション1では、P2Pの問題点とP2Pネットワークの持つ可能性、P2Pアーキテクチャの最新動向、P2Pを利用することで得られた効果などが発表された。
「セッション2」
セッション2では、同日発表されたP2Pガイドラインの紹介と、P2Pネットワークの効果を確認する実証実験などが説明された。
「セッション3」
セッション3では、P2P技術を利用したビジネス・サービスの実例として、次の8社の取り組みが発表された。
| 【セッション3-1】メディア業界と連携したビジネス・モデル事例 | |
|---|---|
| (1)BitTorrent(株) | 映画祭作品の配信 |
| (2)(株)角川デジックス | アニメの配信 |
| (3)(株)ドリームボート | HDコンテンツ配信事例 |
| 【セッション3-2】P2P利用による新たなサービス・ビジネス事例 | |
| (1)(株)ビットメディア | コミュニティFM向けネットテレビ放送 |
| (2)TVバンク(株) | CS放送人気専門チャンネルを同時配信 |
| (3)(株)グリッドソリューションズ | P2P技術によるポッドキャスト配信 |
| 【セッション3-3】P2P技術によるソリューション事例 | |
| (1)ブラザー工業(株) | ストリート系ダンス映像動画配信 |
| (2)(株)ハイマックス | B2B向けP2Pソリューションによる配信 |
[2]P2Pの社会的意義と、CDNとしての技術的可能性

写真1 浅見徹氏
(東京大学大学院教授)
P2Pネットワーク実験協議会会長の浅見徹教授(東京大学大学院教授)は、「P2P=次世代マスメディア」と題し、開会の挨拶を述べた。
「P2Pネットワーク実験協議会の目的は、ネガティブなイメージの強いP2P技術に市民権を与えることだ。P2P技術は、確かにネットワークのトラフィックの大部分を占め、ISPのリソースを食い尽くしているといえる。このため、ISPの中にはP2Pの利用を抑えてしまおうというところもある。
最初にWinny(ウィニー)に関する逮捕者が出た2003年からの5年間、日本のP2Pにとっては「失われた5年間」だった。この間に、欧米でP2Pを情報資源としてとらえる研究が進んだ。当協議会でも、日本国内で、商用CDN(コンテンツ配信ネットワーク)としてのP2Pの技術の認知度を上げていきたい。
P2Pは、うまく設計すれば、コンテンツの流れを、一部のISPのネットワークの中に閉じさせるように制御できる。これが、P2Pとこれまでのクライアント/サーバ方式と決定的に違う機能だ。まだ、本当にきれいに制御できているP2Pはおそらく存在していないが、目指すべきはコンテンツの流れをうまくコントロールし、トラフィックを局在化させるようなネットワークである。
そうしたネットワークがでてくれば、ISPにとってもメリットが高いため、P2P技術は、既存の通信事業者にも許容できるような技術になる。
中央で制御しにくいネットワークというところがP2Pの長所でもあり短所でもある。長所として見ると、P2Pは、中央のサーバが機能しなくてもクライアント間で情報をやり取りできる。そうした草の根的なネットワークであるP2Pが、次世代のマスメディアとして成長してもらいたい。このシンポジウムを機会に日本でも、市民権を得ていくような取り組みにしてききたい」と語った。
[3]P2Pの安全性や有利性の証明するための活動を推進

写真2 有冨寛一郎氏
(マルチメディア
振興センター 理事長)
P2Pネットワーク実験協議会の事務局であり、当シンポジウムの主催者でもある財団法人マルチメディア振興センター理事長の有冨寛一郎氏(元総務省総務審議官)は次のように語った。
「わが国において、インターネットやブロードバンド、モバイルの利用環境というのは、世界でもトップクラスにある。しかし制度的な問題、放送と通信の融合の問題、コンテンツの流通など、課題も少なくない。マルチメディア振興センターは、IT社会に対応するネットワークの利用促進のため、ビジネス分野だけでなく、社会生活全般でITの利便性を享受できるようにするための活動を行っている。
このP2Pネットワーク実験協議会は、2007年8月に総務省の支援のもとに設立された。
利用者が、P2Pネットワークを利用して、高画質な映像などのコンテンツを安心・安全に利用できるようにするためには、一定のガイドラインが必要となる。今回発表される「P2P利用のためのガイドライン」は、そうした目的で、さまざまな観点から議論を重ね策定したものだ。
また、P2Pの安全性や有利性を具体的に証明し、きちんと理解してもらうために、実証実験を推進している。
これから、ますますCDNに代表されるような映像配信の需要は大きくなっていき、日本の経済発展にも大きく寄与すると見込まれている。ABCやCBS、NBCなどの米国の3大ネットワークや、英国のBBCが、人気番組を無料で提供するような動きも顕著になってきた。しかし、動画コンテンツなどは現在のネットワークで配信すると、映像配信サーバの内的負担や技術的な負担は大きい。その負担を軽減するために、P2Pは有効な技術だと考えられる。
海外では、P2Pの利用は、音楽から動画へ移っており、商用のコンテンツ配信サービスでも利用されるようになってきている。そうして見るとP2Pは技術的な面からもビジネス展開上も、大きな可能性を秘めている。
当シンポジウムでは、日本のP2Pビジネスを推進している日本の代表的企業から多数の発表が行われる。ぜひ、ビジネスや研究に役立ててもらいたい」と述べた。
[4]P2Pに関する技術的知見と社会的意義についての議論の場

写真3 黒瀬泰平氏
(総務省データ通信課長)
総務省 総合通信基盤局電気通信事業部 データ通信課長である黒瀬泰平氏は、「ここ10年でブロードバンド環境は急速に発展し、現在3000万世帯弱、年率の伸びでは10%程度づつ増加している。トラフィックを見ると、2年で2倍、年率では20%の伸びとなっている。この中でP2Pが占める割合は大変大きく、サンプル調査で個々のユーザーの動向を調べると、全ユーザーのうち、大量にトラフィックを消費する上位1%のヘビー・ユーザーがトラフィックの半分ぐらいを使用している。こうした状況は、ネットワークを公平なコスト負担で利用するという「ネットワークの中立性」という原則からは離れている。
その一方、ネットワークの混雑をどのように解決してくかという側面から、P2Pを利用してトラフィックの分散化するというテーマがある。
こうした視点から、ネットワークを誰もが公平に利用できる環境を構築するための研究会を立ち上げた。重点的なテーマとして、「NGNのルール」「ドミナント(独占的支配)規制」と並んで、今回のシンポジウムのテーマでもある「P2P」がある。
P2Pネットワーク実験協議会は、P2Pに関する技術的知見を集め、社会的意義についての議論を深めるための場であり、P2Pを、個人ベースでの利用から、ビジネス利用に延ばしていくための研究をしている。総務省の情報通信政策の中でも、"よいP2P"をうまくのばしていくということが重要だ」と語った。