http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000041577.pdf
人口97万人の福岡県北九州市の八幡東田地区(7万人)は、広大な新日鉄八幡製鉄所の工場の跡地を再開発し、高度な都市基盤と環境を共生させた次世代のまちづくりを推進し、低炭素社会に向けた意欲的な取り組みを展開している。この北九州市は、今回の経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証事業」のひとつとして選定され、その取り組みである「北九州スマートコミュニティ創造事業」を推進している〔平成22(2010)年度~26(2014)年度の5年間〕。ここでは、「北九州市」が選定された背景や、スマートグリッド時代に、「地域節電所」(CEMS)を核に、どのようなスマートハウス(HEMS)やスマートビル(BEMS)、スマートショッピングモール等を構築し、新しいスマートコミュニティを目指しているのか、そのビジョンやダイナミックな取り組みを、現地取材をもとに見てみることにしよう。
なお、今回の取材には、北九州市環境局の広報担当課長の渡部誠司氏を中心に、環境政策部長の加茂野秀一氏、スマートコミュニティ担当係長の越智豊氏に多大なご協力をいただいた。ここに厚く御礼申し上げる(取材:WBB Forum編集部)
〔http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000041576.pdf〕
≪1≫北九州スマートコミュニティ創造事業に向けた現在の状況
〔1〕九州電力に依存しない東田地区の電力
図1に示すように、北九州市八幡東区東田地区(以下、東田地区)は、もともと新日鉄(正式名:新日本製鐵株式会社)八幡の工場跡地であるが、10年前に開催された北九州博覧祭2001(2011年7月~11月。ジャパンエキスポ)が終わった後に、どのようまちづくりを進めていくかいわゆる「再開発の一環」として、平成16(2004)年に、「八幡東田グリーンビレッジ構想」が策定された。この構想の下に工場の跡地を再開発し、高度な都市基盤と環境との共生を両立させた次世代の街づくりが推進されて、環境ミュージアム、いのちのたび博物館、環境共生マンション、エコハウスなど多くの施設が建設されてきた(図2)。
その構想の中で、地域におけるエネルギー管理をどう実現するか、という課題を実現するため、現在、東田コジェネが稼働している。
東田コジェネの「コージェネレーション」とは「電力と熱」を有効に利用する方式であり、
(1)発電された電力は東田地区にすべて供給され、
(2)発生した熱(蒸気)は、すべて新日鉄構内に送られ再利用
されている。すなわち、東田地区と新日鉄がコラボでエネルギーを有効利用しているのである。
このため、東田地区では、九州電力からの電力を利用せず、この東田コジェネ(新日鉄)からの電力を利用している、日本でも珍しい地域のひとつになっている(図3)。
九州電力
↓電力供給
新日鉄(東田コジェネ)
↓電力供給
一般住宅(東田地区)
これは、「北九州国際物流特区」の認定に伴う規制緩和項目の一つ、自営線による電力供給(資本関係等によらない密接な関係による電力特定供給)の下で実現できるようになったシステムである。
このコジェネがあるということが、今回の4つの「次世代エネルギー・社会システム実証事業」のうちのひとつに選定された大きな点ともなっている。特定供給エリアであるため、ある程度、思い切った実証ができるというのも1つの特徴となっている(注:宇宙テーマパーク「スペースワールド」のように電力消費が大きいところは、九州電力からの供給となっている)。
〔2〕新日鉄で副生された水素で「北九州水素ステーション」を完成
一方、新日鉄では製鉄の生産過程で水素が副生(副次的な生成物)されており、その水素自体は新日鉄自身もエネルギー源として使用しているが、この水素を例えば燃料電池自動車のような民生の用途に利用できないかということから、福岡県が主導して日本で初めて、パイプライン方式の「北九州水素ステーション」が、平成21(2009)年9月に完成した。
現在、北九州市にも、この水素エネルギーを利用した燃料電池自動車(トヨタ製)が走っているが、後述するように、このほか、スズキが開発した燃料電池スクーター「e-Let’s」の実証が行われている。
図4に、水素エネルギーステーションで、水素ガスを充てんしている燃料電池自動車を、図5に、水素エネルギーステーションのパネル(岩谷産業製)を示す。また図6に、燃料電池自動車のボンネットに書かれた文字を示す。
また、図7に、同じENEOSスタンドの敷地内に設置された、水素エネルギースタンドの隣に設置されている電気自動車(EV)用の急速充電スタンド、さらに図8に、太陽光発電(3kW)による電気自動車用充電スタンドを示す。
(注1)水素エネルギー:「水素」と「酸素」が反応した時に得られるエネルギー。>生成物は「水」だけであるため、利用段階で二酸化炭素(CO2)をまったく発生しないことから、地球温暖化対策として期待されている。
〔3〕再生可能エネルギーの導入状況
このほか、太陽光発電などの再生可能エネルギーを積極的に導入してきており、すでに太陽光発電では400kW程度、風力発電は7kW程度が設置されている。
例えば、スマートビルディングの「九州ヒューマンメディア創造センター」(図9)には10kWの太陽光発電(図10)のほか、3kWの風力発電(図11)が設置されており、同ビルディングのエネルギー管理には「BEMS」(ビルエネルギー管理システム)が導入される予定であり、太陽光発電、風力発電など発電量の見える化も実現されている(図12)。さらに、前述したように、スズキが開発した「燃料電池スクーター」(2輪車)の実証実験も行われている(図13)。
このほか、大きな太陽光発電は、北九州市の「いのちのたび博物館」(図14)に160kW(燃料電池100kW)、環境共生マンションに170kW(HEMSを設置)が設置されている。この環境共生マンションでは、高断熱や高気密化を行い、一般マンションに比べて30%以上のCO2削減を実現しているのが特徴である。また、市の環境ミュージアム(図15)には、5kW太陽光発電と3kwの風力発電を設置。さらに、図16に示すエコハウスでは、太陽熱利用の床暖房・蓄熱利用、太陽光発電などの再生可能エネルギーをはじめ、気密性、風の流れなどを工夫し、家庭におけるCO2排出量の大幅な削減を目指した実証実験が行われている。
≪2≫北九州スマートコミュニティ創造事業のプロフィール
以上、東田地区における低炭素社会に向けた先進的な取り組みや、東田コジェネから供給されている電力の特定供給の地域ということを紹介してきたが、このような実績を背景に、今回の経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証事業」として指定された4地域(横浜市・豊田市・けいはんな学研都市・北九州市)のうちのひとつに「北九州市」が選定(2010年4月)されるに至った。
「北九州スマートコミュニティ創造事業」(表1)は、北九州市のほかの一般的な街区に比べCO2を50%程度削減することを目指して、2010年からスタートした。
この実証実験は、北九州市の八幡東田地区(120ha)で、平成22(2010)年度~26(2014)年度の5年間に163億円を投じて行われる計画で、現時点(2011年11月末現在)で53の企業・団体が参加している。これまで、関連機器やシステムの開発が進められてきており、平成23(2011)年度にはこれらの機器やシステムは、八幡東田地区に設置され整備されることになっている。平成24(2012)年度からは、本格的に実証が開始される予定となっている。
| 項 目 | 内 容 |
|---|---|
| 事業名 | 北九州スマートコミュニティ創造事業 |
| 実施主体 | 北九州スマートコミュニティ創造協議会 〔北九州市、新日本製鐵(株)、日本アイ・ビー・エム(株)、富士電機(株)、(株)安川電機、(株)日鉄エレックスなどで構成〕 |
| 実施地区 | 八幡東区東田地区(約120ha) |
| 実施期間 | 平成22(2010)年度~26(2014)年度(5年間) |
| CO2削減目標 | 市内標準街区と比較して、2014年までに2005年比50%減 |
| 事業数 | 38事業 |
| 総事業費 | 163億円(5年間) |
| マスタープラン(詳細) | 北九州スマートコミュニティ創造協議会:平成22(2010)年8月作成 http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000041577.pdf |
前述したように、すでに八幡東田地区では東田コジェネによる電力供給などにより、ほかの地域に比べて約30%のCO2削減は達成されているので、今回の北九州スマートコミュニティ創造事業により、約20%上積みをして、50%削減を目標としている。
≪3≫北九州スマートコミュニティ創造事業の4つの柱
次に、北九州スマートコミュニティ創造事業で推進される、4つの大きな柱(取り組み)を紹介する。
〔1〕第1の柱:新エネルギー等10%街区
第1の柱として、東田地区を「新エネルギー等10%街区」とし、契約電力ベースで約2万kWの10%にあたる2,000kW程度を、再生可能エネルギーである太陽光発電・風力発電や水素(燃料電池)などを利用して実現していく(図17)。
〔2〕第2の柱:街区まるごとの省エネシステムの導入
また八幡東田地区には、住宅をはじめオフィス、病院、工場、商業施設など、いろいろな施設がある。それぞれに対応した省エネシステム開発が進められており、今後、順次導入が予定されている。
これらの省エネシステムを後述する「地域節電所」と連携させることで、個々の施設(スマートハウスやスマートビルなど)のエネルギー利用の最適化のみならず、街全体のエネルギー利用の最適化を両立させることが可能となる。
〔3〕第3の柱:地域エネルギーマネジメントシステム(地域節電所)の構築
このプロジェクトの中心(心臓部)になるのが前述した地域節電所であり、具体的には図18に示す地域エネルギーマネジメントシステム(一般にCEMS:Community Energy Management Systemともいわれる)の構築である。
この地域節電所(CEMS)は、図18に示すように、基本的に、
①インターネット網(双方向通信網)と
②送電線網(電力網)を
連携させ、地域全体のエネルギーの最小化を目指す、北九州スマートコミュニティ創造事業の心臓部である。
すなわち、地域節電所(CEMS)は、インターネットを利用して、スマートメータが導入されたいろいろな施設(スマートハウス等)や発電設備(太陽光発電等)から情報を収集し、地域のエネルギーの使用状況を把握しながら、より効率的にエネルギーを使えるようなシステムを目指している。
(1)2つの電力の有効活用
この北九州スマートコミュニティ創造事業が行われる八幡東田地区における電力は、前述したように、九州電力からの電力は一切使用せず「東田コジェネ」(新日鉄)を基幹電力とし、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギー等による電力(分散電源)の2つが利用される。
すなわち、安定的に供給される基幹電力と、再生可能エネルギーによる不安定な太陽光発電等による電力(分散電源)の両方がある環境で、不安定な太陽光発電の供給能力を予測しながら、地域節電所(CEMS)で電力情報を管理し、電力が余りそうなときは利用者(家庭や企業)に「使ってください」、足りないときは利用者に「ちょっと抑えてください」というような情報を流し、電力を有効に活用する。
(2)ダイナミックプライシングの導入
また、地域のエネルギー需給状況に応じて電力料金を変動させる「ダイナミックプライシング」制度を導入し、「電気が余っているときは、料金を安くし、逆のときは料金を高くする」というように、地域節電所(CEMS)から需要家(利用者)に情報を提供し、それに応じて需要家のほうで電力の利用を制御してもらう。これは手動の場合もあるが、今後、ビルにBEMS、家庭にHEMSなどが設置されれば、送られた情報に応じて自動的に、家電機器や空調関係機器などを制御することが可能となること、などを実証していく。
このダイナミックプライシングについては、現在、具体的にどのような料金体系にするか、いくつかシミュレーションしながら検討されている。
例えば、
①基本的な「ベーシックプライシング」の場合は、その年の初めに、「朝、昼、晩」の基本的な料金を決める。
②また、前日または当日朝などに、天候の予測やその日の電力需要の予測などを勘案し、本日の電気料金は「いくらにしますよ」というような情報を需要家に流す。
③さらに、かなり急な状況の変化によって需給が逼迫(ひっぱく)し、需給の状況が大分大きく変化したときときには、さらに3時間前ぐらいに、「リアルタイムプライシング」を設定し、料金を変える
というように、3パターンぐらいで電気料金を変えていくというようなことが考えられている。
〔4〕第4の柱:次世代交通システム
今回の北九州スマートコミュニティ創造事業は、このようなスマートグリッドやエネルギー管理などの実証が主ではあるが、図19に示すように、まちづくりの事業として、次世代交通システムによる地域社会づくりも重視されている。
すなわち、EV(電気自動車)やpHV(プラグインハイブリッド車)の導入はもとより、公共交通機関と連結するようなコミュニティ交通の導入、また地域内の移動には従来のような4人乗りの自動車ではなく、例えばセグウェイのような小型の移動体を普及させ、そのような省エネ車で地域の中は移動して、なるべくエネルギーを使わないようにする。同時に「東田グリーングリッドの構築」を目指して、まちの緑化を推進し、暮らして気持ちのよいまちづくりも推進されている。
☆ ☆ ☆ ☆
以上、北九州市の八幡東田地区における、北九州スマートコミュニティ創造事業に向けた現在の状況、および、これから本格化するこのプロジェクトの中心となる「地域節電所」(CEMS)の構想などを見てきた。このHEMSやBEMSとの連携によって実現するCEMS(地域エネルギー管理システム)を核にした新しい視点の「地域節電所構想」は、最小エネルギーを目指す「まちづくり」を実現するに大きな期待が寄せられている。
この実証実験が、きめ細かい「日本版スマートグリッド」「日本版スマートコミュニティ」のモデルとなり、東日本大震災の復興のみならず、電力・エネルギー危機を迎えている欧米諸国や、新しく台頭しているアジア、アフリカなどの新興諸国のエネルギー問題の解決に向け、国際的にも役立てられるよう、そのプロジェクトの成功を期待したい。
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スマートグリッドシリーズ第3弾
日米欧のスマートメーターとAMI・HEMS最新動向2011
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執筆者:新井宏征(株式会社情報通信総合研究所)
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サイズ・判型:A4判
価格:CD(PDF)版 85,000円(税抜)
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本書は、第1弾のスマートグリッド、第2弾のスマートハウスに続いてく、「スマートグリッドシリーズ」の第3弾である。本書は、現時点におけるスマートグリッドビジネスの本丸とも言えるスマートメーターをテーマとして、関連するさまざまなトピックを取り上げている。電力量計の歴史をひもときながら、スマートメーターの登場までをたどり、スマートメーターの仕組みや、スマートメーターと密接に関連する重要な要素であるAMI(高度メータ―基盤)やHEMS(宅内エネルギー管理システム)について解説をしている。
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スマートグリッドシリーズ第2弾
日米欧のスマートハウスと標準プロトコル2010
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執筆者:
新井宏征(情報通信総合研究所)、 水城官和・林為義(Wireless Glue Networks)
ページ数:174P
サイズ・判型:A4判
価格:CD(PDF)版 85,000円(税抜)
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本書では、先行する米国のホームエリアネットワーク(HAN)技術を中心に、最新のアプリケーション「Smart Energy Profile 2.0」について全体像を解説している。さらに、スマート ハウスを構成する「スマートメーター」「HEMS」(ホームエネルギー管理システム)」「エネルギー端末」について整理してまとめ、続いてスマートハウスに関連する実証実験プロジェクトやビジネス動向についても触れている。



























